開発保留地区――10年前、街の中心部にあるその場所から理由もなく、3095人の人間が消え去った。今でも街はあたかも彼らが存在するように生活を営んでいる。しかし、10年目の今年、彼らの営みは少しずつ消えようとしていた。大切な人を失った人々が悲しみを乗り越え新たな一歩を踏み出す姿を描く。
「失われた町」と同じような消えた町にまつわる話。今回も面白かった。そして「失われた町」を再読したくなりました。
毎回、この世界とはちょっと違った何かがある三崎さんの物語。今回は街が消失した理由にもなっている気化思想の供給っていうのが面白かったです。「気化思想の供給管は電気や水道、下水道と同じく、都市インフラのひとつとして機能し、地面の下に網目のほうに張り巡らされている。余剰思念の抽出・再供給システムが確立したのは百年ほど前。余剰思念の体内蓄積による自家中毒を防ぎ、同時に均質化された気化思念を取り込むことによって体内浄化を促進するという名目。人々は定期的に供給公社の「抽出ルーム」を訪れ、献血でもするように、余剰思念を「抽出」する。抽出された思念は、いくつかの工程を経て気化され、地価に埋設された供給管を通じて各家庭に還元される。そんなシステムの余剰思念がこの街の地下秘密プラントに違法貯蓄されていた。必要な量の四十倍だった。それが突如異質化して一気に漏出したことから3095人もの人が消失したというのだ。」以前の「失われた町」では30年に一度、消失があるが原因がわかっていないとなっていたが、この町では突然の事故と言う感じです。
事件から10年。家族を失った人たちが失われた家族を思いながら暮らしています。今まで10年間、存在しないのに存在しているかのように図書館で本が貸し出され、ラジオ局にリクエストが届き、発着のないバスのライトが見えていたのだが、ここにきてその3000人の動きが少しずつ見えなくなってきた。そんな状況をどうやって受け入れようかともがく人々。
「動物園にヒノヤマホウオウを展示中とありましたね」とか「この町は既に「七階撤去」が完了していた…」とか、今までの三崎さんの世界がちゃんとそこにありました。
⇒ 数(自然数)は、幽霊である。 (11/17)
⇒ 式神自然数 (10/21)
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⇒ 三角点 (10/20)
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⇒ 秋緒 (02/02)