宍倉勲は二十代半ばで父が興した会社を引き継いだが、十五年後に敢えなく倒産させてしまった。罪悪感をぬぐえないまま再就職し定年まで働き、もうすぐ「人生の定年」も迎えようとしている。だが、そんな勲の働く姿こそが、娘の香を「会社」の面白さに目覚めさせて―「仕事」によって繋がった父と娘を、時間をさかのぼって描く連作長編。
製菓会社の二代目社長だった宍倉勲は父親の興した会社を守れず倒産させてしまった。その後勤めた繊維会社も定年退職している。娘の香が一人息子の孫を連れて実家に戻ってきている。孫の勇と連れて墓地を観に行くところから物語りは始まります。それから、義息との旅、繊維会社での海外工場視察、娘の家出など、日々がどんどん遡っていく。
最初の章で会社をつぶしてしまうくらい能力がないのかしら、お墓を無理やりかわされそうになり孫に助けられるくらい押しが弱いのかしら、と思ってしまいますが、過去に遡るうちに勲の人柄がわかり、人には向き不向きもあるんだなって思えます。
「床屋さん」がどの話にも出てくる。勲が社長時代にひいきにし、今や香も勇まで利用することになった床屋さん。会社で会議に出席する女子社員が気合を入れるために床屋で顔ぞりをしてもらう。テクノカット発祥の地に出かけた勲夫婦が二人でテクノカットにした事を最終章で知ったときには笑っちゃいました。
子どもの頃、香が父親の会社見学に行った時に泣き出してしまい、「おい、泣くな。笑え。笑ってくれ」「笑えって言われても笑えないよ」「今日、いちばんおかしかったことを思い出せ」の会話。神妙な面持ちで今日一番おかしかったことを思い出す香がにんまりと笑う。そんな親子の姿がすごく素敵でした。そして大人になってもそんな父親の言葉を実行している香が微笑ましかった。
⇒ 数(自然数)は、幽霊である。 (11/17)
⇒ 式神自然数 (10/21)
⇒ アスラン (04/07)
⇒ 脱皮中 (11/10)
⇒ 三角点 (10/20)
⇒ 鶯張り (10/02)
⇒ ゆっぴ (09/26)
⇒ かぶの入門 (06/12)
⇒ 由紀 (03/16)
⇒ 秋緒 (02/02)